見た目の涼やかな着物として、「白っぽい着物や淡いブルーの色味」を思い浮かべると思いますが、「黒っぽい絽や紗のお着物」が案外多くあります。これは暗い色味のお着物に白色の長襦袢を透けさせることで清涼感をだすためです。
そこで夏のお着物には襦袢が大切な役割をします。
このように夏には夏の特徴がありますので、以下でじっくりお話ししていきたいと思います。
夏のお着物に合わせる羽織・襦袢・小物類
羽織
真夏は非常に暑いですが、羽織を着た方がいい場合もあります。その時は、薄いすけた素材である「紗の羽織」や「絽の羽織」を着ます。一般的には「絽」がフォーマル用、「紗」がセミフォーマルからカジュアル着用として取り扱われています。
長襦袢について
着物の下に着る襦袢についてお話ししていきます。夏でも頻繁にお着物を着られるようでしたら、長襦袢は、普段用とお出かけ用とで区別して用意された方がよいと思います。
普段着物
6月から9月にかけて、単衣のシーズンに入ります。6月でも30度を超えたりと非常に暑い日が多いですね。そうなりますと私は「半襦袢」を着て、下は「ステテコ」を履いています。涼しい素材の商品がたくさんでていますので、夏用の半襦袢やステテコが普段着物を着られる場合はおすすめになります。
どうして長襦袢にしないのかといいますと、夏はとにかく汗をかきます。そうしますと、襦袢の下に肌着を着ていてもどうしても汗が襦袢にもつき、洗う必要があります。洗った回数だけ襦袢の生地がいたんでくるんですね。
以前、毎日のようにお着物を着る機会があり、夏場に絽の長襦袢を着ていました。お家で丁寧に手洗いをしていましたが、夏の間のワンシーズンで生地がいたんでしまい着られない状態になった経験があります。もちろんフォーマル着には長襦袢を着る必要がありますが、普段着物等には「半襦袢」と「ステテコ」で十分だと思います。綿素材などでしたら毎日でも洗えますし、お高い絽素材よりも気軽に装えるはずです。
絽や紗の着物
夏の着物の代表である「絽や紗」の素材は非常に透けて見えるのが特徴です。そうなりますと下に着ている襦袢が透けて見えてしまいますので、”半襦袢にステテコ”というわけにはいけません。
そうゆう時は「居敷当て」という腰から裾まで覆うものをお着物に付ける方法があります。ちょっとしたお出かけでしたらそれで間に合うと思います。ですがやはり付けるのが面倒でしたら、半襦袢と裾除けで対応すると良いと思います。
小物類
半衿
夏の半衿には「絽」や「麻」「麻絽」などが涼しくてよいでしょう。
帯締め
帯締めは、ぽってりした分厚いものは暑苦しいです。三分紐にでガラス玉の帯留めを使うと涼しげでよいですね。
また帯留めを使わない場合は、組紐で夏素材のものがありますので、夏用で色味は涼しげなものを選ばれると最適かと思います。
帯揚げ
帯揚げは「絽」のものが多く販売されています。お着物に合うお色味が一番ですが、特に白やブルーのお色は涼しげでおすすめです。
足袋
足袋は袷のお着物の時に履くものよいですけれども、少しでも涼しくしたいのであれば”麻素材”もおすすめになります。お出かけ格ならok?
普段着物や綿着物にはレース素材の足袋もよいでしょう。
扇子
扇子は一本あると便利です。涼をとるためにはもちろんですが、日傘代わりにちょっと外を出歩く際には使えます。
手ぬぐい
夏のお着物は何度もいいますが、汗をかきます。
麻のハンカチなどもありますが、私は手ぬぐいをおすすめします。木綿の手ぬぐいは汗をふきとりますし、様々な場面で使えますので。
バッグ
藤の編んだカゴや竹かごなどがよいでしょう。皮でしたら涼しげな色でしたらよいですが、真っ黒などは暑苦しい印象になると思います。
草履
浴衣やちょっとした木綿着物でしたら下駄で良いと思います。ですが、お出かけ着物にはやはり草履です。草履で白色のエナメルのものがありますが、これが夏には見た目も涼やかで重宝だと思います。
また、パナマや竹で編んだ素材などが草履の台になっているのもありますので、持っているお着物に合わせた一品を探すのはとても楽しいと思います。
着物 夏 暑さ対策
身につけるものをいかに肌触りがよく涼しいものを選ぶかということが大切です。
お着物を着る際には、1肌着、2長襦袢、3着物、4帯と順番に重ねてきていきますが一つ一つに対策をすることで涼しさが変わってきます。
まずは肌着ですが、夏用のスリップなどが出ていますので綿や綿麻のものが汗を吸い取ってくれてよいでしょう。
襦袢
日常着、オシャレ着くらい格のお着物の場合は、肌襦袢・半襦袢がよいでしょう。身頃のところはガーゼや晒でできていますので、汗を吸い取ってくれます。綿や綿麻素材がおすすめです。またお家で洗いやすい素材であることも大切だと思います。この半襦袢のお袖に「嘘つきの袖」をつけるとよいでしょう。
ステテコ
これも綿や麻、綿麻など様々な素材があります。
また”近江ちぢみ”という素材はべとつかず非常に涼しいのでおすすめです。
ステテコを履くけれど、お着物に居敷当てが付いていないという場合は、「裾除け」をあてましょう。この裾除けも涼しい素材のものが良いですね。
フォーマル用襦袢
きちっとしたお着物を着なければならない時、フォーマルな場面では、「長襦袢」を着ます。
一番高いランクが「絽」、次に「紗」となりますがどちらも非常に透ける素材ですのできちっとした長襦袢を着ることが大切になります。
基本は絽の着物には絽の長襦袢、または紗の長襦袢を着ましょう。
この時に注意すべきことは、
「袖の丈」、「裾丈」です。
夏の長襦袢は特にお着物に合わせピッタリとしたサイズのものにすることです。黒や紺などの透けた素材の夏着物に白い長襦袢を見せるのが清涼感を演出し夏着物の特徴でもあります。
襦袢とお着物のサイズが合ってないとアンバランスなのが本当に目立ちます。ですのでしっかりサイズの合った長襦袢をきてください。
オシャレ着、日常着物として「麻「や「綿」、麻と綿を混ぜた交織のお着物などもあります。これらは襦袢が透けませんので、半襦袢にステテコでも大丈夫です。
またちょっとしたお出かけには麻の長襦袢が大変便利です。汗を吸い取り発散してくれますので、涼しさ対策にはとてもよい素材です。さらに洗ってもすぐ乾きますし、夏ならではの長襦袢だと思います。しかしシワが入るとなかなか取れずらいので、フォーマルな着物を着る時には麻の長襦袢は合わせないほうがよいでしょう。長襦袢のシワが際立ちます。
帯板
帯板には「メッシュ」を使うとだいぶ暑さが違います。
帯枕
お太鼓に結んだ時の帯枕が案外暑いです。帯枕を夏用にヘチマ素材にするのもおすすめです。昔は、お家でヘチマができたら好みの大きさに切って帯枕にしていました。熱がこもらなくて夏場には助かります。
着物 夏 男性
男性の着物姿をみかけますが、とっても素敵な着方をしている方をたまに見かけます。そんな姿を見ますと、女性とはまた違った良さ、素晴らしさがあるなと感じるものです。
夏のお盆の頃は花火大会があるので、若いカップルの方たちに浴衣を着せることが多々ありました。若い男性の方には浴衣が一番なじみがあるんじゃないでしょうか。
最近は帯と浴衣とセットで売っておりますけれども
浴衣というのは元々湯上りにきていたものでして、寝巻きの一種でもあります。素材は木綿が一般的だと思います。
ですからシャキッときていないと「寝巻きかな」という印象になりやすいのです。浴衣をきっちり着ていただくと、普段見慣れているような感覚とは違い粋な印象に様変わりします。しっかり着せてあげると本人もとっても喜んで帰られるので、私も着付けのしがいがあるものです。
綿の浴衣を選ぶ時
綿はとても親しみやすい素材の浴衣です。お高くなればなるほど分厚いのが綿の特徴です。綿100%の浴衣でももちろん結構ですが、綿に少し麻が入ったものの方がより涼しく着れると思います。
「しじら織り」というのがそうです。たとえば男性の甚平なんかにもよく使われています。生地自体におうとつがあるので肌にベタッとつかず涼しげに着れます。だいたい綿70%麻30%の割合で作られています。
また浴衣生地ので反物から選ぶ時ですが、女性物の反物の方がやはり多く商品として売られています。しかし女性用の反物でも粋な柄ものも出ていますので、女性ものだからと思わず男性用として選ぶのもおすすめです。
しかしこの時気をつけなければならないのは”反物の幅”です。女性用ですと幅がだいたい39cmなどと決まっています。男性は肩幅がありますので、女性用の反物を選ぶ際には幅が40cm以上のものを選ぶとよいと思います。
男性の場合の肌着
白色のインナー(首周りは浴衣の襟から見えないくらいしっかり開いたものであれば大丈夫です)、下半身はステテコでよいと思います。
帯
兵児帯や夏用の半幅帯や博多帯などを合わせます。半幅帯にはやはり麻が入ったものですと涼しいです。
着物 夏 柄
柄は夏手前くらい6月下旬から7月くらいは「夏の盛りの柄」を
7月過ぎから8月の盛夏には「早く秋にならないかな」という感覚の柄である初秋のものが盛夏には良いと思います。トンボなどがありますね。草木でも菊や桔梗など秋を先取りした柄もよいでしょう。礼装、正装でない限り、ご自分の好きな柄がよいと思います。
着物 夏 コーディネート
夏は涼しげなコーディネートを心がけます。またどの季節にも言えることですが、着物と帯のバランスを整えることが大切です。
絽、紗、などのお着物には絽の帯などがよく合います。
上布も盛夏に着るお着物ですが、これは小紋の格ですので、小紋に合わせる格の夏帯がよいでしょう。
小紋あたりの格の夏のお着物ですと、博多帯なんかが非常に使いがってがよいと思います。また訪問着には合わせませんが、付け下げあたりの格のお着物には「羅の帯」もよいですよ。
浴衣には麻素材などの涼しい半幅帯がよいですよ。ポリエステルの半幅帯もありますが、あれは夏の帯ではありません。オールシーズン使えますと言われていますが盛夏には向きません。夏用の半幅としては麻素材ものになるんです。また博多に紗が入った帯などもおすすめです。
着物 夏 麻
今は着物といえば「絹」の着物が定着しておりますけれども、昔は麻の着物がよく着られていました。暑い時期は湿気もありますので、「夏の着物は麻」というのが定番でした。ではなぜ近年着られなくなったのでしょうか。
麻というのは、糸を作る工程で、手で裂いて糸にして織り上げていくんですが、非常に手間がかかります。麻100%のものは機械で織り上げることができなません。昔人件費がかからない時はよかったのですが、今はそれができなくなってきていますので非常に高価な素材なんです。たとえば非常に高価なもので代表的な、”宮古上布”というものがあります。洋服でリネン100%というのも麻ですが、お着物でいう麻は基本は上等な布という意味で「上布」といいます。
「絽」が夏のお着物として最高級と言われていますが、実は上布と言われるものの中には国の重要文化財になるような織りの麻の着物があります。たとえば近江上や布宮古上布があります。単なる文化財ではなく国の指定の文化財です。
上布の特徴として、着た時のハリ感が違います。汗をかいてもぺったりしません。私も若い頃、なんの素材かわかりませんでしたけど、知人からそれは麻なんだよと教えてもらったとき、確かに涼しいと感じそれから麻の見方が変わりました。
去年、私の友人がヤエヤマ上布を購入して着せてあげましたけど、やはりとても爽やかな着心地です。残念なことは、お値段と着物のランクはちがうところです。あくまでも普段着物なんです。キャデラック一台買えるお値段の着物ですがやはり日常着物、普段着物なんです。それが着物の粋なところともいえますでしょうか。着物を着る本人の心意気を感じられるものですね。
手間暇をかけなければ作れない麻のお着物ですので高く着る機会が減っていますが、
綿100%や絹100%のお着物を着るよりも、麻が少しでも混ざっている着物を着るほうが夏の装いの秘訣かと思います。
・綿紅梅 絹紅梅
綿紅梅
格子状に2種類の綿の糸で織られた浴衣です。格子の中を細い糸、枠を太い糸で織っていますので、表面に凹凸ができ、表地が勾配しておりますので、勾配織とも紅梅織りとも言われます。
肌にべとつかない為に、浴衣として愛用されています。
因みに、勾配織りと言われますが、青梅地方で織られていたため紅梅織りと言われているそうです。やはり紅梅織りのほうが着物らしい呼び名ですね。
絹紅梅
薄手の絹糸の地に太めの綿の糸で格子状の凹凸を織った綿と絹の交織生地です。
綿紅梅よりも軽く、透け感があります。浴衣の最上級の素材で襦袢を合わせて、街着としてもお召しいただけます。
綿紅梅は自宅で洗濯できますが、絹紅梅は絹が入っているため自宅では洗濯しない方がいいです専門店に出しましょう。
合わせる帯
浴衣に使う帯が利用できますが、絹紅梅はちょっとしたお出かけの時には、博多の帯とか麻、羅の名古屋帯などのカジュアルな夏帯がいいと思います。
盛夏の着物と浴衣の違い
ちょっとしたお出かけ着として選ぶ時、浴衣と夏着物の差がわからないことがあるかもしれません。
お風呂から上がった時に着る衣が浴衣でして、昔は日が落ちてから夜に着るものでした。最近は花火大会がさかんであったり多種多様な浴衣があります。日中にきていける浴衣も出ていますので、夏のお着物と混同しがちのようです。
また小紋や訪問着に思われるような浴衣も出ています。以前見たことあるもので、絵羽模様の浴衣もありました。浴衣と言われなければわからないものでした。
見分け方ですが、旅館に出てくるような色味の浴衣や、これこそ浴衣というような”朝顔”などの柄のものは夜のみ着て行ったほうがいいと思います。しかしこれも着方で変わります。
浴衣でも半衿をつけて足袋を履けば、日中お出かけ着、ちょっとしたお買い物着としても何ら遜色ない着方になります。
私は夏暑くなりますと、絞りの浴衣に兵児帯をしめて半衿をつけてでかけます。白の半衿でもいいですが、今流行りの手ぬぐいで浴衣の半衿にしてみたりして、もっと気軽に楽しんでいただければと思います。そうしますとこれは日中でも大丈夫な着方なんです。
浴衣は着方次第で盛夏の着物(よるだけでなく日中でも着れる着物)になると覚えておいていただければと思います。