「季節に応じたお着物を装う」ことは洋装の時と同様にとても大切なことです。まずはこの記事で基本的な装いのルールを知ってください。
季節のルールを知り「お着物」と「季節」の関係をふまえて装うことは、日本の豊かな四季の移り変わりに対してより敏感に受け取るようになり、その一瞬のひと時をじっくりと味わおうとする意識が徐々に芽生えていくと思います。
お着物と季節の”大切な関係”を理解しながら、お着物を装うことで得られる様々な醍醐味を味わっていきましょう。
夏用訪問着
目次
1.季節のお着物の種類
季節のお着物の種類には大きく分けて以下の3種類があります。
・袷(あわせ)・・・10月〜5月に着用
・単衣(ひとえ)・・・6月と9月に着用
・薄物(うすもの)・・・7月と8月に着用
基本的なルールは、
秋から初夏までは「袷」を
初夏と初秋には「単衣」を
盛夏には「薄物」を
と覚えておくと良いと思います。
1-(1)袷(あわせ)とは
「10月から5月」にかけて着るお着物になります。お着物の柄・模様・色味等によって春秋冬それぞれの雰囲気を表現しています。”透けない生地”を表地に使い、”胴裏”と”八掛”が裏地として付けられているのが特徴になります。
※胴裏(どううら)・・・お着物の胴周りについている裏地
※八掛(はっかけ)・・・胴裏より下の裾部分(前身頃、後ろ身頃、衽)と、衿先と袖口に付いている裏地
1-(2)単衣(ひとえ)とは
「6月と9月」に着るお着物であり、6月は”春単衣”・9月は”秋単衣”とも言われます。胴裏、八掛の裏地が無くて「一枚で仕立てられている」のが特徴のお着物になります。
また、お着物の強度を増したり、お尻部分が透けるのを防ぐ役割として”居敷当て”で補強された単衣もあります。”居敷あて”の裏地の大きさは様々あり、「腰周りから裾に向かって幅広く付けられたもの」や、「お尻周りにのみ付けられたものも」等があります。
ーポイントー
今日では5月に入ると初夏のような暑さの日もあると思います。5月は「袷」を着る季節と言われていますが、このような日に「単衣」を着てもかまいません。
また、「季節を先取りする」という意識から本来ならば6月に着る単衣を5月に着たり、盛夏に着る薄物を6月に着ることもあります。基本的なルールを知った上で、その日の天候などに合わせた装いをすることがとても大切です。
1-(3)薄物(うすもの)とは
「7月〜8月」の盛夏に着るお着物になります。
フォーマルな場では「絽(ろ)」や「紗(しゃ)」を、
カジュアルな場では「麻(あさ)」や「縮(ちぢみ)」の生地を着用します。
単衣に仕立てられていて、「薄くて透ける」のが特徴です。夏は涼しげに装うことが大切になりますので、薄物の下に真っ白の襦袢を着ることで清涼感を演出します。
1-(4)単衣の例外
「ウール着物」や「木綿着物」は、盛夏(7月8月)以外、一年を通して着ることのできる普段着物になります。気軽に着られるカジュアル着物として用いられるので、主に単衣に仕立てられています。
単衣仕立てでも袷の時期に着られるこのようなお着物があることも覚えておきましょう。
2.季節の帯の種類
袷のお着物に合わせる帯と同じく、夏の帯も”染めよりも織りの帯が格上”であり”袋帯”がより格のあるものとして用いられます。
2-(1)単衣に合わせる帯ー初夏ー
5月の暑い日の装いとして単衣に合わせる際は、「絽綴」や「紗袋」のような単衣用の帯が良いでしょう。その他、袷用の帯でも薄手で色味も爽やかなものであれば合わせることができます。
6月、単衣の季節に入ったら「絽」「紗」を用意しましょう。
夏の文様を選ぶと、季節先取りの粋なコーディネートになります。
ーポイントー
透け感の強い夏の帯は控えましょう。夏物へと衣替えをしていく季節ではありますが、盛夏向きの生地である「羅」のような生地は、6月ですと季節感の早すぎる装いになります。盛夏に入ったら「羅」の帯を合わせましょう。
2-(2)薄物に合わせる帯ー盛夏ー
7月8月に装う薄物には「羅」「紗」「絽」「麻」などの帯を合わせます。暑苦しい季節を”涼しげな素材”と”透け感”ある装いによって見る人を爽やかな気分にさせるコーディネートを心がけてください。
2-(3)単衣に合わせる帯ー晩夏・初秋ー
9月に入ると薄物から単衣の時期に戻ります。
「絽縮緬、絽紬、紬」の帯を合わせるとよいでしょう。夏の柄・模様や薄くて爽やかな印象のものから、少しづつ落ち着いた色味のものでコーディネートしましょう。
2-(4)袷に合わせる帯ー10月から5月ー
唐織、錦織、綴織、塩瀬、紬など、シーンに合わせた様々な種類の帯があります。四季のシーンに合った色味や柄のものを選びましょう。
2-(5)一年中使える帯
「博多帯」「木綿」「半幅帯」等の帯は一年中使えるのでとても重宝します。主にカジュアルな装いのお着物に合わせる帯になります。
※紗(しゃ)・・・夏用として代表的な織物。全体的に透けるのが特徴です。「涼しげ」「しなやか」な印象の生地です。
※絽(ろ)・・・夏用として代表的な織物。「絽目」のなす独特な縞模様になるのが特徴です。
「五本絽」「三本路」など絽目の間に入る糸の本数によって縞模様の幅が変わります。縞に沿って透けている生地は絽である可能性が高く、紗との見分けがつくと思います。
※羅(ら)・・・粗い織り目のもので、透け感が強くカジュアルな装いに向いた生地です。格子状の隙間に織られているのが特徴になります。
3.季節の小物の種類
”6月から9月の期間の小物類は、「絽」のものに切り替える”と覚えておきましょう!
3-(1)帯揚げ
6月〜9月の帯揚げは「絽」「紗」「麻」など、薄くて淡い色味のものがとてもよく合うと思います。
単衣には「絽縮緬」のような生地の帯揚げが合います。
10月〜5月には綸子、縮緬、ぼかし染め、絞りなど様々な種類のものがあります。
3-(2)帯締め
夏用の帯締めとして”透かし組”で織られたもの等もありますので、お着物によって使いわけてください。また、袷用の帯締めでも”平組で細めのものや淡い色味(涼やかな色味)のもの”でしたら「単衣」や「薄物」にも合わせることができます。
10月〜5月には、冠組(ゆるぎくみ)、平組のものが一般的です。季節が寒くなるにつれ太めのものや、色味の重たいものが合うでしょう。
3-(3)半衿
6月〜9月の半衿は「白の絽」のものを使用すれば、間違いありません。どのような場にも合わせられます。
10月〜5月には、「白の塩瀬」のものが基本になります。こちらも、どのような場面にも合わせられます。
3-(3)長襦袢
6月〜9月の長襦袢は「絽」「紗」「麻」等があります。夏は汗をかく季節ですので、麻ですと自分で洗えて非常に便利です。今は、ポリエステル生地の長襦袢もありますので気楽に洗えるという面ではこのような素材でも良いかもしれません。
ーポイントー
盛夏の装いは、薄物の下から透ける長襦袢の爽やかさを見せるも醍醐味の一つです。白い長襦袢が薄物から透けた着物の姿は、真夏の街中によく映えて涼やかな印象を周りの人に与えます。”ご自身にピッタリなサイズの長襦袢を着ること”が真夏の装いにはとても大切なポイントになります。
まとめ
①6月と9月は「単衣」、7月8月は「薄物」、10月〜5月は「袷」のお着物を着る。
②6月から9月までの小物は「絽」「紗」「麻」のものを中心にコーディネートしていく。
③基本的な季節のルールを知り、その上で”その日の天候に合わせたコーディネートを心がける”ことがお着物の装う際の大切な心得になります。5月でも暑い日は「単衣」でコーディネートするなど臨機応変に季節を感じ装いを楽しみましょう。