入園式や卒業式でお着物の方を見かけると、その品のある凜とした着姿にはっとさせられることがあります。今回はこのような場で母親がお着物をどのように装うと良いか、まとめていきます。
訪問着
目次
1.入園式でお着物を装う際の心得
①子供が主役の場であることを忘れない
②華美になり過ぎない上品な着姿で子供の門出を引き立てる
③フォーマルな場に合った装いをする
「入園式・卒園式や入学式・卒業式」は、正式な場(フォーマルシーン)でありまた子供が主役の場です。このような場での母親の装いは、主役であるお子様の門出を心からお祝いする雰囲気をまとうことが大切な点になります。
上品な色味や柄があしらわれたお着物を選び、格調高い装いを意識しましょう。(※その土地の地域性・風習、または学校によって、よりふさわしい装いが求められることもあります。不安な場合には、事前に調べておくと良いでしょう。)
2.ふさわしいお着物の種類
①訪問着
②付け下げ
③色無地(※紋付であること)
「訪問着、付け下げ、紋付の色無地」は入学式のようなフォーマルな場にふさわしいお着物になります。格式は【礼装〜準礼装】なので、帯や小物を合わせる際にはそのお着物に合う格調高い装いを心がける必要があります。
また上記のお着物は結婚式やその他、改まった場面で装うことのできる格ですので、上品な色味のものが一着あると何かと重宝するでしょう。
(1)訪問着
訪問着は華やかな【※絵羽模様】が特徴のお着物です。格調高く、華やかさのある訪問着は留袖の次に格のある装いになりますので、結婚式や式典のような特に改まった場面の装いとして最適です。
※絵羽模様・・・胸から肩に、そして袖や裾に描かれた模様は縫い目をまたいで繋がっている模様のことをいいます。これは以下の手順にそって染められ、完成させます。
①反物を着物の形に一度仮縫いする。
②模様の位置を決め、下書きをする。
③仮縫いを解いて改めて染める。
●母親の装いとして訪問着を選ぶ●
母親の装いとして訪問着を選ぶ際には、主張が強すぎる大胆な柄や派手な色味は控えた方がよいでしょう。上品な淡い色味のものがおすすめです。華美な模様のほどこされた訪問着の場合は、格調高く落ちついた印象の帯を合わせることでバランスをとると良いかもしれません。
(2)付け下げ
付け下げは訪問着を簡略化したお着物として作られました。格は【準礼装〜略礼装】になります。訪問着と小紋の間の格にあたります。
訪問着のような絵羽模様がほどこされたものではなく、反物の状態で模様が染められたものを付け下げといいます。 (訪問着の絵羽模様のように、柄が縫い目をまたいで繋がるように仕立てられた付け下げもあります。瞬時には訪問着と見分けのつかないもので「付け下げ訪問着」といいます。)
縫い目をまたいで柄が繋がらない仕立てのものが付け下げですので、シンプルですっきりとした印象になります。
●母親の装いとして付け下げを選ぶ●
一つ紋を入れると準礼装としてよりフォーマルな装いになりますので使い勝手のよい一着になります。入学式や卒業式の雰囲気に合った装いになるでしょう。(紋無しの場合でも、格調高い袋帯を合わせることでフォーマルな印象に変わり、入園式のような場でも十分装うことができます。)
控えめな模様が入った付け下げの場合は、帯や小物に華やかさのあるものをコーディネートするとバランスがとれると思います。小紋のように全体に柄付けされた付け下げもありますが、この場合は礼装向きではありませんので注意が必要です。
(3)紋付の色無地
色無地は白生地を一色に染めたお着物です。※地紋(生地に織り出された模様)の入った白生地か地紋のない白生地を一色に染めたお着物です。
色無地は紋の数によって格が変わります。五つ紋で留袖と同等の正装として、三つ紋で訪問着よりも格上(正装)に、一つ紋ですと訪問着と同等以上(準礼装)のものとして装うことができます。五つ紋や三つ紋ですと装うことができる場面が限られるため、現在では一つ紋の色無地が人気です。
結婚式からパーティー、式典、お茶席などの改まったシーンで装えますので、一着あるととても重宝するお着物としておすすめです。
※紋無しの色無地は小紋と同等の格になり、礼装むきではありませんので装う際は注意しましょう。
●母親の装いとして色無地を選ぶ●
お祝いの席ですので気品のある淡い色味のものを選び、暗い色味のものは控えましょう。柄が無い色無地は質素な印象になりやすいので、華やかな袋帯を合わせて礼装の印象にまとめることを心がけましょう。
衿元には伊達衿を合わせるとより花やかさが増します。伊達衿を選ぶ際にはお着物の色よりも淡い色味のものを選ぶと装いに統一感が出て、まとまった着姿になります。
3.ふさわしい帯・その他の小物
このようなフォーマルな場に合わせる帯や小物類は、すべて【礼装用】のものにすることが大切です。帯はお着物に対して格上(または同格以上のもの)のものを選ぶことが基本になります。その場に相応しい帯を締めることは、着姿を決める大切な要素の一つです。品のある袋帯を合わせましょう。
(1)袋帯
フォーマルなシーンに締められる帯(礼装用)の種類は「織りの袋帯」が基本です。金銀の糸で重厚な文様に織り出された袋帯を用います。金銀の糸や金銀の色彩が多く使われている帯ほど格が上がり金銀の分量が少なくなるほど(または全く使われていないもの)、お洒落着用・カジュアル着用としての格に変わっていきます。
金色銀色の糸の総量が多い袋帯ほど印象が重厚になり、正装である黒留袖や色留袖に合わせます。入園式や卒業式のような【正装〜準礼装】の場では、特に金色の印象が強すぎる袋帯は華美になりすぎて訪問着や色無地などと合わせにくい場合もあります。ある程度格調高く品のある印象のものを選びましょう。
●ふさわしい帯●
訪問着や付け下げと合わせる際は、お着物の柄の華やかさとのバランスをとりながら帯を選びます。はっきりした柄使いのお着物の場合は、帯は淡い模様のものを合わせるとよいでしょう。
色無地の場合は、大胆な柄・色味の袋帯でも全体の印象次第ではしっくりくる装いになります。母親の装いであることを意識し、合わせるお着物に対して「華美になりすぎていないか?」「質素になりすぎないか?」を意識して帯を選んでいきましょう。
(2)草履
エナメル製または布製の礼装用の草履を選びます。布製の織りの草履は正装用として、エナメル製のものは正装〜準礼装用として使われます。また、フォーマル度が高いものとして金色や白色を基調とした色味のものがあります。
※礼装用としてバッグと草履がセットになっているものもありますので、一セットあるとフォーマルな場で重宝します。
●ふさわしい草履●
このような場で履くものとしては、シンプルでお着物に合わせやすい「エナメル製のシルバーや淡い色味(ピンク色やクリーム色)、白色」などがおすすめです。準礼装として重宝します。
礼装用の草履の条件は①鼻緒と前つぼ、台がすべて同じ色(柄)のもの②かかとの高さが4〜5cm前後くらいあるものになりますので、この2点を確認しながら選びましょう。※かかとの高さが極端に高いものとしては振袖用の草履があります。
(3)半衿
白色の半衿が基本です。素材は塩瀬が一般的なものになります。礼装には必ず白色の半衿を合わせます。また白地に白・金・銀の刺繍がほどこされた半衿も礼装に合わせることができますので、色無地のようなシンプルなお着物にはこのような半衿を合わせることもおすすめです。
●ふさわしい半衿●
基本は「白色の塩瀬」とおさえておけば間違いありません。染めの色柄半衿はカジュアル向けであり、礼装にはNGです。
(4)伊達衿
伊達衿を入れるとよりフォーマル度があがります。色無地の場合は、色無地より薄い色味や同系色の伊達衿または白色の伊達衿を合わせることも可能です。
(5)帯揚げ・帯締め
帯揚げは暖色系や淡い色味のものが合わせやすく、品よく装うことができます。色味が淡いものほどフォーマル度が上がります。少し濃い色味のものでもお着物に合った印象のものでしたら問題ありません。
帯締めの正装や準礼装用は平組か丸組の金銀が入ったものや、淡色のぼかしが入った格調高いものになります。丸組はより太いもの程フォーマル度が高くなります。
(6)バッグ
布製のバッグが礼装の場では用いられます。織りの入った上質な布製のバッグは上品な着姿にピッタリです。
またはエナメル製や革製のも可能です。この時も、上品な色味のものを選びます。
大事なのは、デザインがシンプルで上品であることになります。あまりにも洋装向けのデザインであったり、大胆にブランドのロゴが入っているようなバッグは控えましょう。
荷物が増えてしまう場合は、和装用のサブバッグや風呂敷を用意しましょう。
(7)足袋
木綿の白い4枚こはぜの足袋が一般的に用いられます。このような礼装の場では必ず白色の足袋を履いてください。白色以外の足袋はすべてカジュアル用ですので注意しましょう。
白足袋はどのような場にも合わせることができますので、お着物の機会が増えていくつか買い揃える際にはオーダー足袋もおすすめです。オーダー足袋の良い点は自分の足にフィットし着姿をより美しく引き立ててくれます。着物に慣れたの人ほど、足袋にシワがなく美しい足元をされています。
※フォーマルには5枚こはぜと言われますが、これはお着物姿では素足を見せないようにすることが良いとされているためです。大股歩きや雑な動きをしない限り一般的には4枚こはぜの白足袋で十分対応できます。
※こはぜ・・・くるぶしで留める金具部分のこと。
(8)コート
訪問着など礼装用のお着物で外出の際はお着物用のコートを羽織ることが基本になります。「道中着」や「道行」が一般的です。これらのコートは着物を汚れから守る塵避けとしての役割も担っています。
また丈の長いコートで晴雨兼用の雨コートというものもあります。寒さ対策から雨避け、晴れの日は塵避け用と重宝する一枚になります。
コートの代わりに、大判のショールを合わせることも可能です。その際は、ベルベットやちりめんのような上質な素材のものを選びましょう。ウールなどの素材は礼装向きではありません。
4.季節
(1)季節の着分け
お着物は季節によって3種類の仕立てたのものを着分けます。
10月から5月までは「袷」を
6月と9月は「単衣」を
7月と8月は「薄物」を
という着分けのルールがあります。
卒業・入学シーズンは「袷」の季節になりますので、レンタルをする際などは仕立ての表示を確認してから選びましょう。
(2)寒さ対策
卒業・卒園・入学・入園のシーズンは春といってもじっとしていると冷えてくる気温の時が多いと思います。お着物の場合、お腹は帯に守られているため冷えたりすることはないですが、足元から冷えてくる可能性があります。
そのような時の為に、肌色や白色のストッキングを一枚履いておくと暖かさがまったく違います。(※和装には透けた白色のストッキングが主流です。)
肌色のものでしたら万一足が見えてしまった時にも見苦しくありません、和装用ストッキングという製品があるように正式に履くことができるものですので、寒さが心配な場合はこのようなものを活用してみてください。
(3)当日に気をつけたいポイント
ヘアセットの際は、控えめで上品な簪を挿しましょう。黒い地色に蒔絵の施されたものや、パールの和装用簪などがお着物に合わせやすいでしょう。大きすぎる髪飾りは禁物です。
5.母親の装いにおける心がけまとめ
頭から足元まで控えめでありながら礼をわきまえた上品な装いで出席することを心がけましょう。淡い色味のもので統一すると、とてもコーディネートしやすいと思います。品性と華やかさを兼ね備えたお着物はこのような晴れやかな場と非常に相性が良いものですので、この機会にお着物姿で出席されることをおすすめします。