季節に寄り添い着物を纏う事
着物の約束事は沢山ありますが
まずは自然・季節に寄り添い装う事を大事にします。
山と海に囲まれた小さな小島日本・そして巡り来る四季折々の自然の営み。
日々変わる自然の眺めの美しさが際立つ日本。
そんな環境につつまれ育まれてきた日本の文化。
瞬時として同じ模様が無く
あるときは季節の 移り変わりのあまりの速さを嘆いたりもする事もあります。
昨年の此の頃に着てぴったりで気に入っていたのが
今日着てみるとなぜかしっくり来ないと思う事があります。
また、前夜に準備していた着物が
朝着てみると何となく違うと思う事があります。
朝の気配によるのでしょうか。
変わらぬデザインですが、
ふたつとして同じ色柄の無い着物と帯の組み合わせ。
季節との調和を思い、わずかな挿し色にも心をくばる着物の装いは
四季や自然環境に、それとはなしに寄り沿っていきます。
「美」とは自然を愛でる日本の心
日本の美しい風景の描写がちりばめられた随筆枕草子。
五七五という短い音律の中に
日々刻々と変わる美しい日本の季節を詠んだ和歌・俳句。
源氏物語では80種類もの多彩な色が登場しています。
平安時代の十二単衣のあの色使いとグラデーション・幾多の色と柄を
使いながら一層調和させています。
また、自然を愛する日本人の美意識は
「木々の緑」一つにもこんな素敵な名を付け楽しんできました。
白緑(びゃくろく)・緑(みどり)・柳緑(やなぎみどり)・常磐色(ときわ色)あお(青)ろくしょういろ(緑青色)・ちとせみどり(千歳緑)・みどり(緑)ふかみどり(深緑)・あんりょくしょく(暗緑色)・もえぎいろ(萌葱色)・わかたけいろ(若竹色)・せいじいろ(青磁色)・とくさいろ(木賊色)・むしあお(虫襖)・あおたけいろ(青竹色)あおみどり(青緑)等々。
自然を深い愛情を持って見事な観察眼と表現力で此の様に使い分けています。
このデリケートな心が千年の歴史の中で磨かれ・技を駆使し作り上げた染織の世界。
ここから生またのが日本の着物と帯の文化です。
此の繊細に創られた色を縦横に使いつくられた着物に、
多彩な色柄の帯を絞め帯揚げ帯締めと色を重ね、
半襟・簪・扇子とあわせる事により、独自の着物姿が創られていきます。
其れは一つとして同じもの無い貴方の世界となっていきます。
着物姿には同じ人はいないという不思議な世界です。
数多くの色と柄を使っているのに調和し
わずかな色にさえ大きな役割をあたえる
その細やかな心遣いが貴方の美の世界をつくっているのです。
此の様にして私たちは着物を着るたびに
色と色・色と柄の調和の美意識を身につけ智慧と感性を磨いてゆきます。
着物は唯一、身にまとい行動出来る美の代表。
美は宝物のように蔵の奥深くに閉まっておく物ではなく
日々の生活のなかで感動し、使ってこそ美だと思っています。
眺め楽しみ、手にふれ感触を味わい、季節を纏う着物。
着物は技もデザインも色彩も全てが包含された美の世界です。
日本の四季に溶け込み調和し人々に愛され
其の原型を大きく変える事無く幾多の文化を凌駕し
現存し続けている、其の真実こそが「美の証」だと思います。
職人たちの想いが込められているからこそ
其の美しさを愛でるかのように私たちは優しく身に纏っていきます。
其の着物姿も一日しかもたない刹那の美かも知れませんね。
そして、刹那であるが故に尚美しいのかも知れません。
そんなこんなで着物を御召しになるときは是非、
巡り来る春夏秋冬の移ろいを楽しみ、
季節を少し先取りした装いを考えられるといいかと思います。