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市松模様の藍色/紬絣柄の紬/真綿紬の帯合わせを楽しむ
着物生活が非日常化した今日この頃、お着物に触れる機会は減少し、成人式に振袖を着ただけという方も多いのではないでしょうか。現在”日常着としてお着物を装う”経験をされている方は、ごく一部のお着物の好きな方に限られると思います。
しかし、紬のような日常着に適したお着物には、装って初めて感じる発見があります。もしこれまで振袖や訪問着のような礼装しか経験のなかった方ならなおさら、お着物に対する概念がガラッと変わってしまうはずです。その着心地の良さにとても驚かされると思います。
日常着物の魅力に取り憑かれてお着物生活を始める方までいらっしゃいました。今回はそんな日常着物の代表である「紬」に焦点を置き、装いの楽しみをご紹介していきたいと思います。
「お着物を装いながら、ゆとりのある時間を気持ちよく過ごしたい・・・」そんな時にはぜひ”紬”を選んでみてください。昔から日本人に日常着として親しまれてきた紬は、気楽な着心地と動きやすい素材であることが魅力の一つです。
「つい声を掛けたくなるような・・・懐かしいような・・・」そんな印象が紬にはあります。では紬の種類や帯合わせの楽しみ方をじっくりと見ていきたいと思います。
1.紬を装う
1.紬の着物は、お召しになる方自身が「気楽な装いを楽める」事がとても大切です。普段着として洋服を装う際、ゆったりと自分に合った装いをするように、紬を装う際にもこのような感覚を大切にします。
2.紬に合わせる履物は”まきの少ない草履(高さのあまりない草履)”や”菱屋のカレンブロッソ・カフェ草履”のようなカジュアルな草履が良いでしょう。またご近所の散歩などでは白い足袋に下駄に巾着袋を下げて軽快な装いにするととっても心地良く感じられると思います。
3.袷(あわせ)の季節である”春秋冬の時期”に装うことができるのも紬の長所の一つになります。帯や小物をそれぞれの季節に合ったものにすることで、紬は3シーズンのに対応できるのです。
2.紬に最適な場面
紬は日常着(カジュアル着)の格になります。
”ショッピング”や”お友達とのお茶会”のようなちょっとしたお出かけや、”美術鑑賞”や”旅行”のような動きやすい装いが必要とされる場面、”映画鑑賞”のような長時間座る際の装いに向きます。またお茶・お花・書道・お琴・三味線等の和のお稽古事においても重宝するお着物になります。
3.市松模様の藍色紬/絣柄の紬/真綿紬の帯合せを楽しむ
3種類の紬について説明を加えながら、それらを元に帯合わせご紹介していきます。異なる特徴を持つ帯を合わせていくことで変化するお着物の表情をぜひご覧になっていただければと思います。
[1]市松模様の藍色紬のお着物と3本の帯の組み合わせ
藍色で織られた着物は紬の代表的な色になります。一見地味な印象ですが市松模様の織り柄がモダンにも見えます。シンプルな色柄のおかげで帯によって様々な変化を楽しめます。
市松模様に織られていますが藍一色の色使いですので一見すると無地感覚の地味なお着物ですが、色彩の違いを際立たせた色合いの帯を合わせることで若々しく可愛い着物姿を演出してくれます。ざっくりした織りの風合いがカジュアルな装いに最適です。
若い方から70代80代とどんな年代の方にもお召し頂ける色柄です。”八掛”を年代に応じた色に取り替えて、帯や小物の工夫をする事で生涯お召し頂けるお着物になります。
1-①赤いちりめんの名古屋帯
赤のちりめんに菊と紅葉が鮮やかに染められた可愛いらしい帯です。秋の代表的なお柄の名古屋帯。若い頃にはこんな組み合わせで装いたいですね。秋晴れの爽やかな日差しの中、デートやお買い物にいかがでしょう。
※ちりめんのについて
”ちりめん生地”は他の生地とは違い厚みを持つように織られているのが特徴です。お着物・帯・帯揚げなどに使用されています。昔から重宝されてきた素材ですので淡い色から濃い色まで数多くのお色があります。
暑さを感じる季節以外で用いることができますので、その時期にあった色味のものを合わせましょう。またちりめん素材の”単衣”は肌触りがとてもよく夏場に装いたくなるお着物なのですが、夏の装いとして相応しくありませんので覚えておいてください。
1-②菊の古典柄の袋帯
落ち着いた色合いの袋帯には帯締めの緋色(ひいろ)がアクセントになります。深い秋や冬に着たい装いですね。お茶のお稽古等にもお勧めです。
1-③相良刺繍の白い帯
藍色のお着物に白一色の帯というシンプルな色使いで、幅広い年代の方にお召し頂ける組み合わせにしてみました。お若い方がお召しの際は、”半衿”や”帯締め””帯揚げ”を明るい色味にすることで全体の印象をより若々しく仕上げられます。
相良刺繍の施されたこの白い紬帯は、光沢を押さえた中に落ち着きある作りが特徴です。紬素材と相良刺繍が見事に融合された帯として仕上げてあります。ちょっとしたお出かけの際にも、ゆったりとした着心地の紬なのに優雅な印象をも醸し出す装いになるでしょう。
こぼれ話:白い帯について
「白い帯が少ないですね」と帯屋さんに聞いたことがあります。汚れ防止加工の技術が発達していなかった時代は、汚れやすい白い帯を日常着用としてあまり作られなかったことが原因の一つだそうです。現在では汚れ防止加工も開発され白い帯をより安心して締める事が出来るようになりました。
白い帯はお着物との相性がよく、重宝する帯の一です。機会がありましたら、一つお誂えすることをお勧めします。
※相良刺繍(さがらししゅう)について
中国三大刺繍の一つであり、時間と技術を非常に要します。糸が引っかからないのでどの刺繍よりも丈夫なのが特徴です。刺繍とは思えないような光沢が抑えられた落ち着きある上品な刺繍で、お着物にも使用されています。
[2]淡いクリーム地に赤の絣柄着物と3本の帯
淡いクリーム色地に赤の絣柄(かすりがら)が優しい印象の紬です。このお着物は絣柄が小さいので、色無地感覚で装えます。様々な帯に合わせやすい絣柄のお着物といえるでしょう。
絣柄のお着物は日常着物に多く使われ、様々に変形された絣柄があります。”絣柄が小さい”程に高価なものと言われていますがあくまで普段着として格ですので、値が張るからといって日常着以外の場面では装えません。
2-①ざっくり織られたチョコレート色の帯に緑色の帯締め
チョコレート色の帯地にざっくり刺繍をした暖かそうな帯に、春の気配を感じさせる紬の組み合わせです。お若い方がちょっと大人の雰囲気でお茶やお花のお稽古に行かれるのもお勧めです。
2-②グリーンの大振りの格子柄がモダンな帯に赤の梅の模様の帯揚げ
ざっくり織られた大胆な格子柄の珍しい帯です。茶目っ気あるのこの帯は日常着である紬にとってもよく合います。今か今かと春を思い慕う、そんな気持ちを表した印象です。お稽古事にも向く装いになります。
2-③塩瀬の帯に桜の刺繍の半衿
塩瀬の名古屋帯と刺繍の半衿を合わせて、落ち着いた中にも女性らしい装いに仕上げました。友人やご主人と美術館に行ったり、お買い物に行くのも楽しい装いです。
[3]着込まれた真綿紬の着物と3本の帯び合わせ
長年着ることで紬のしなやかさと光沢が出てくるのが、真綿紬の特徴です。経年によって身体に寄り添うよう変化する真綿紬の着心地は格別です。しなやかでありながらもシャキっとしていますのでよく動いても着崩れがせず、安心してお召し頂けるのが真綿紬のお着物です。
不思議な魅力のあるお着物、それが真綿紬なのです。このしなやかさを出す為にわざわざ一年程寝間着として着たり、お手伝いさんに着てもらった後に、洗い張りし仕立て直す・・・そんな手間をかけることもあったようです。
日常着・旅行・街着など、心地よく来ていきたい場所へ是非真綿紬をご活用ください。また、柄に季節感が無いこのような真綿紬の場合は、春秋冬と夏以外の着用が可能なります。
3-①ざっくり織られたチョコレート色の帯
上記、絣柄の着物にも登場した帯ですが着物が違えばこんなにイメージが変わります。雪の降る寒い日はふんわり真綿紬のお着物に包まれて、ほっこりしたこのような装いがいかにも暖かそうです。
家庭着・お出かけ着どちらでも着用できます。おこたに入ってみかんを一口、そんな場面にもよく合いそうです。
3-②深いモスグリーンに朱色の組紐紋の刺繍の名古屋帯と七色の帯締め
縁を結ぶと言われる”組紐紋の名古屋帯”に、七難を逃れ七つの幸を呼ぶと言われる”七色の帯締”めを合わせました。しゃれたお出かけ着として、またお稽古にも良い組み合わせです。
※組紐紋について
仏教伝来の時に仏具等の付属品として渡来し以来、奈良時代は礼服、鎌倉時代には武具の装飾に使われ、桃山時代には茶道具の飾り紐というように用いられて着た組紐の文様を言います。
3-③全通の袋帯に同系色の帯締め・櫛
真綿紬に合わせた三本の帯の中では、ちょっとしたお出かけ着としてよりふさわしい装いになります。(※日常着としての格であることに変わりありません。)この帯は艶やかな光沢ある細い絹糸で織られていて、柔らかくて軽く繊細な印象が特徴的です。ざっくりと太めの糸で織られた帯よりも少しだけ改まった印象であることから、このように解釈されます。
控え目な髪飾りの櫛も合わせることで、一段上級の日常おでかけ着としてしあがりました。
※全通(ぜんつう)の帯
帯全体に柄がある帯を全通の帯と言います。帯は本来”全通”でしたが、時代とともに合理化されその他の種類も作られました。帯をお太鼓に締めた際お太鼓部分に見える[お太鼓柄またはポイント柄]・帯の全体の六割に柄がある[六通]・4割の柄の帯[四通]などがあります。
結びに
紬の着物はどんな時、どんな感情、どんな季節・どんな条件の時に着れば良いのと思っていらっしゃる方には、昔のTVCM・サントリーレッド「少し愛して、ながーく愛して」のキャッチフレーズで有名な大原麗子さんの着物姿は普段着着物の手掛かりとなりそうです。
色無地の着物にシンプルな帯をしている人を見て「旅館の仲居さん見たい」と言ってた人を思い出しますが此れもまた未熟故の寂しいお話です。でも十人十色、多様な価値観の時代に生きる私たちはそういう事とも融合しながら日本の磨き抜かれた美しさを愛でていきたいですね。このページに目を向けて下さった方々はそんな感性を磨こうと努めていらっしゃる方々かと喜んでいます。
塩瀬の帯と言えば思い出す事があります。
ニューヨークの夜景を織り込んだ紬の着物にクリスマスツリーを描いた塩瀬の帯にエメラルドの帯締めでイブを楽しんでいた先輩の装いは素敵で・塩瀬の帯の本領発揮と言った感じでした。